掃除当番じゃないかぎり、俺はすぐに部室に向かう。
そこが一番古泉に会いやすい場所だから。
もちろん二人きりで会えればベストなんだが、
そんな機会は学校では作りにくい。


下手に機会を作ってハルヒや朝比奈さんに俺の気持ちがバレた日には、
他のメンバーどうのこうのより、古泉に嫌われてしまうだろう。
それだけは避けなければ。
慎重に行動しよう。


stairway step2




「早いですね、僕が一番かと思ったんですが」


期待通りに古泉が二番目に現れたことで、俺の気分は瞬時に盛り上がった。
月曜から幸先がいい。


「お前も早いな。俺に会いたかったか」
「まさか。今日はバイトが入ってしまったので挨拶だけでもと思いまして」


軽く斬られたぜ。
しかももう帰るのか。ハルヒの機嫌が悪かったから、嫌な予感はしていた。




「涼宮さんたちによろしくお伝えください」
「分かった。怪我すんなよ」
「今更しませんよ、特に今日は軽度のものですから」
「それでも気をつけてくれ」


最初に見たときは、あまりに色んなことがいっぺんに起きすぎて感覚が麻痺していたが、
三年前からあんなのを相手してるのかと思うと、
俺が中学時代何も考えずにのんびり過ごしてきたことを思うと、
古泉の状況にはある種の同情のようなものを感じる。



「偉いよな・・・お前」
「偉くはないですよ。では」
「なあ、終わってから会えないか」
「遅くなりますから」
「じゃあ家に着いたらメールしてくれよ。電話する」




俺の食い下がりに古泉は苦笑しながら頷いて、開けたばかりの扉を閉めた。
早く来て良かった、長門だけに言伝して顔を見せないこともあるから、
こうして会えて電話の約束までできれば文句はない。
怪我すんなよ古泉、
お前がまたあの化け物と闘うために空を飛ぶなんて考えたら手に汗が滲むぜ。
俺が代われるものなら代わってやりたい。
それが無理でも、他に何かしてやれることはないだろうか。






「悩み事ですか?キョンくん」


柔らかな笑顔の朝比奈さんが問いかけてくださる。
そうなんですが、相談は出来ないんですよ。



「どうせこの前のテストのことでしょ?いつも寝てるから分からないのよっ」




お前だっていつも寝てるくせに、どうして勉強が出来るんだ。
毎度のことではあるがそろそろハルヒに習うのもどうかと思う。
あ、そうだ、古泉、あいつのクラスは頭がいいから、教えてもらえるかもな。
邪魔にならない程度までは自分で勉強して、古泉に教えてもらおうか。


おっと、またしてもらうことを考えていた。
俺があいつに何を出来るか、なのに。




心ここにあらずの俺の相手を諦めたハルヒは早々に帰宅した。
俺も早く帰ろう、古泉からいつメールが来るかも分からないからな。






家に帰ってからは常に携帯を手放さず、
1時間に1回は新着メールの問い合わせをしたが一向にメールが来る気配はない。
夕飯も10分で済ませて風呂にも入らずテレビも見ずにただただ古泉からの連絡を待った。
待つのは嫌いじゃない、古泉は俺に嘘をついたりはしないから。アテもなく待つのは苦手だが。






22時を、そして23時をすぎても古泉からメールが来ない、
途中谷口からまったく内容のないメールが来たときはぬか喜びとなり怒りすら沸いた。
谷口は悪くない、ああ、悪くない。






ついにシンデレラも元に戻る時間をすぎて瞼が落ちそうになった頃、
メールが届いた。


『遅くなってすみません。おやすみなさい。』



俺はメールのおかげではっきりしっかり目が覚めたんだが、
この内容だと眠いから電話するなと言ってるようにも見える。
画面に古泉の番号を映し出したりまたメールを見返したりところころ変えながら悩んだ結果、
少しでも声が聞きたいから、通話ボタンを押した。




数コールで声が聞こえてきて、つい、ベッドの上で正座になる。



『はい、古泉です』
「俺だ、遅かったな」
『ええ、まあ』
「大変だったのか?怪我したんじゃないだろうな」
『してません。神人退治以外にもね、調整があるんですよ。色々と』



気苦労が耐えないな。SOS団でも気を遣いすぎなくらいだってのに。
声もやや疲れ気味だ。長く話せば負担になるだろうから、短めにしよう。





「飯はちゃんと食えてるのか」
『夜は抜くことも多いですね、遅くなると眠くて』



古泉の寝顔を想像すると、・・・如何ともしがたい気持ちになるな。
とてつもなくかわいいに違いない。
疲れ切って帰ってきて倒れるように寝るんだろうか、
そんな無防備な古泉をぜひとも拝みたいものだ。




「それは、キツいな・・・今度、飯食いに来ないか、ウチに」
『あなたの家に?お気持ちはありがたいですが気が引けます』
「じゃあお前んちで、何か作ってやるよ」



家庭科の成績がいいわけではない、
文化祭でハルヒと一緒にキャベツを切ったときはあまりの速度の違いに戸惑った。
それでも切り方は下手じゃないと鶴屋さんに誉められたんだ。
お前のためなら、練習したっていいぜ。




『いえ・・・それも遠慮します』
「何でだよ」
『余計疲れそうなので』



こいつはっ・・・
俺を落ち込ませるのが、うまいな。
効いたぞ今のは。
俺といると疲れるのか。
命令で仕方なく笑っているんだからそんな時間を増やさないでくれということか。




やれやれ、すぐにどうにかなるとは思っていないが、
道は険しそうだ。



『すみません。言い方が悪かったですね。あなたのせいではないんです、
 私的な理由で疲れているだけで。もう、寝ます』
「ああ・・・悪かった、遅くに。おやすみ」
『はい』





疲れてる、か。
ハルヒのせいで変な能力に目覚めちまって、
やることなすこと何でも上に報告して決められて、
常に心の内を隠すような笑顔を保って、
ハルヒのご機嫌取りをして、
さらには男に告白されて、と。
そりゃ疲れるな。





あいつ、細いし。
いかにもちゃんと飯食ってなさそうだし、
何か出来るかと思ったんだが、迷惑だったか・・・。
俺にもっと心を開いて欲しいものだ、
疲れているなら愚痴だって聞いてやるし、
無理に笑わなくてもいいし横で寝ていたっていいんだ。
そんな風になれればいいのに。





俺も、眠くなってきた。
古泉の声を聞いたら、話の内容はともかくとして、安心した。
今日も怪我をしなくてよかった。
これからのことはまた考えよう。
古泉。
夢の中でくらいは、俺に甘えてくれよ。
おやすみ、古泉。



thank you !

見事に進展ゼロです!こんな速度で何とかなるんだろうか・・・
古泉の気持ちを引き寄せられる伏線がどこにもないよキョンさん・・・
BL風味満載で続きも妄想いたします。

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