「寒い、ですね」



お前はそもそも体温が低いんだから、
もっとあったかい格好をしてこいよ。
ハルヒに付き合うなら何をさせられるか分からないんだから、
それを学んでないお前じゃないだろ。



求合




冬にもアルバイトをすべきだと言い出し、
クリスマス直前の休日に俺達は呼び出され、
ケーキ売りのバイトを命じられた。


ハルヒ・朝比奈さん・長門の3人は室内でのんびりと、
俺と古泉は屋外でサンタの格好をさせられての販売担当だ。
女子3人のウエイトレス姿はそれはもう素晴らしいものだったが、
そんな感動は最初の1時間で消え去ったね。
天気がいいから平気だろうと踏んでいたが予想以上に外は寒く、
つり銭を渡す手もぶるぶると震えた。
それでも、サンタの衣装すらも似合ってしまう古泉の容姿のせいで、
若い女子にはそれなりに売れた。何の変哲もないケーキがな。



「薄着してきたお前が悪い」
「はい・・もう少し着込んでくるべきでしたね。もう客足も
 途絶えてきましたし、動いていないと余計寒いです」



いつも白い肌もより白く見える。白、というより青白いな。
唇はまだ赤みを保ったままだが、必死に息を吐いて両手で
温めているからだろう。この時期に風邪は悲惨だぞ、古泉。



「風邪を引いたら、お見舞いに来てくれますか?」
「気が向いたらな」
「はいっ」



そこで笑うなよ。
おれはイエスなんて返事をしたわけじゃないぞ。
俺の返事を勝手に意訳するんじゃない。
いくら正解でも、だ。



「・・・・・・」




・・・震える腕を見ていると、どうしてもよからぬ感情が湧き上がってくる。
後ろを振り返れば、楽しそうに談笑しているハルヒ達がガラス越しに見えるから、
そんなことが出来ないのはわかっている。
ただ、こんな、隣で寒そうにされたら、暖めてやりたくなるのが常ってもんだろう。
相手が古泉なんだから、余計にそうだ。





時計を見る。
終了まで、あと20分。
20分もあるのか。
今この瞬間に大停電でも起きれば、その隙に乗じて抱き締められるのに。
せめて手くらい握れないものか。
俺はあの手が好きなんだ。
この寒さで荒れたりしたらどうしてくれる。





「あの、どうかしました?」
「何が」
「いえ、僕の手をじっと見つめているようなので」
「握りたいと思ってただけだ」
「そっ・・・そんな・・・」



聞いてきたから答えたのに、言葉を詰まらせて視線を逸らす。
古泉はいつもそんな調子だ。
俺に言うのは得意なくせに、
俺に何か言われるのは苦手なんだよな。
不幸体質なのか、お前は。
素直に喜んでりゃいいものを。





「今日はもう終わりでいいんじゃないか」
「そうですね、涼宮さん達は・・・あ、ケーキを食べてます」
「あいつら・・・」



店内で売れ残ったらしいケーキを食べている様子が目に飛び込んできた。
声かけろよ、いくら俺がケーキは得意じゃなくても、
疲れているときの甘いものはやたらとうまかったりするわけだし、
古泉なんかは結構、好きなんだからさ。
俺はいいからこいつにくらいは食わせてやったっていいじゃないか。




クリスマスイブは部室で鍋をやると決まっているから、
明日にでもケーキの一つや二つ、持って行ってやろう。
クリスマスプレゼントなんて気恥ずかしい物は準備できそうにない。
何か渡してやればこいつは喜ぶんだろうけど、
喜んでるときの笑顔は、結構かわいいけど、
でも、恥ずかしいからな。駄目だ。ケーキで我慢してくれ。





「気になりますか、中」



ぼーっと視線を泳がせたままそんなことを考えていたら、
ハルヒ達を見つめていると思われたらしい。
古泉は少しだけ睫毛を伏せて、片付けの準備を始めた。



「気にならない」
「そうですか」
「明日お前んちに行くことを考えてたんだよ」
「ぼく、の?」
「暇だろ?明日。お前がイヤなら行かないけど」
「ひ、ひまです!来て、ください」



余計な心配なんかしなくていい。
俺はいつだってお前のことしか、
・・・って、何を考えてるんだか。





どうしてこうなったんだろうな。
平均値を大幅に上回る見た目の女子3人とお近づきになっているというのに、
どうして古泉のことばっかり考えなきゃならんのだ。


そしてこいつも同様に。
その容姿ならどんな相手だって選びたい放題のくせに、
どこを間違えて俺なんかに惚れちまったんだ?




「ちょっと、熱くなってきました」



単純だよなあ、本当に。
寒いせいか他の何かのせいか、頬を赤くして笑う古泉を見て、
どうしてもたまらなくなって頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
このくらいなら見られたっておかしくないはずだ。
これだけずっと傍にいて、指一本も触れるなって、そんな無理な話はない。





「・・・今日、一緒に帰りたいです」



白い息を吐きながら、聞き取れなくなる寸前の小声で言ってきた。
触れたいのは、俺だけじゃないってことか。
でも、今日は・・・
明日、泊まるし。そう言ってあるから、連日は難しい。
当日いきなり言うとオフクロの機嫌が悪くなるんだよ。
ハルヒみたいに化け物を生み出したりはしないが、
いつも古泉の家に泊まっているのは知ってるから、
心象を悪くしたくない。




「そうしたいのは、やまやまなんだけど、ちょっと」
「・・・はい。すみません」
「謝らなくてもいい」




気を落とすなって。
ほら、ハルヒ達から呼び出しだ。
片付けて、とっとと帰って、
ここからならお前の家の方が近い、
俺が家に帰ったらすぐ電話するから、そんな顔をするな。






「古泉くん!キョン!お疲れさまっ!今日はこれでおしまいよ」
「ハルヒ、お前ケーキ食ってただろ。俺らの分は?」
「ないわ。ちょうど6個余ったもの。一人2個で、ちょうどでしょ」
「あのなあ・・・」


飛び出してきたハルヒは上機嫌、長門も心なしか満足げな表情で、
朝比奈さんだけが謝ってくれた。いいんですよ朝比奈さん。
甘い洋菓子は朝比奈さんに食べられてこそ本望でしょう。





衣装を脱いで戻してくると夜もだいぶ更けていて、
急いで家に帰ったものの帰りが遅いと叱られた。

小言をたっぷり受けた後に古泉に電話してみれば1コールもたたないうちに出て、
特に何でもない話をしてみれば、なぜだか心が癒される。ような気がする。
古泉で、か。
古泉で。





電話を切った後もしばらく横になって天井などを見ながら、
考えるのはもっぱら古泉のことばかりで、
これはもう相当に重症だ。
会っているときよりも会っていないときにあいつのことを考えてしまうのは何故だろう。
こんなことなら今日一日、もっと古泉のことを見ていればよかった。
もっと話をしていればよかった、
いつも、こんなことを思う。





早く明日になればいい、そのために今夜はとっとと寝よう。
朝目が覚めたら、評判のいい店まで行ってケーキを買ってから行こう。
明日こそ一日中、飽きるまで古泉を見て古泉と話して古泉に触れてやろう。
飽きる自信なんか全くないが、そうしよう。




古泉。
早くまた、会いたい。






thank you !

何の変哲もない!というか物足りない(笑)
クリスマスネタということで結構前に書いたツンデレキョン×デレ古泉。
エロ古泉を先にアップしてしまったのでぬるすぎますね。。(´∀`)

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