HB
「これ、何、ですか」 震える声と手で古泉が俺に差し出してきたのは、 薬が入っていた小さな瓶。ラベルは外していないから、 見れば何の効果があるかはすぐにわかる。
俺とやるときは毎回のように飲まされて、 どんなに嫌でも体が反応するようになってしまう、薬。 前は俺がやりたいと言うと顔を真っ赤にして頷いて、 ぎこちないながらもキスをしてきたり体に触れてきて、 俺から何かしてやれば嬉しそうに顔を歪めて背中にしがみつき、 好きですと繰り返し呟いて必死に俺を求めていた。 今は違う。 一度傷つけてからは、それが癖になった。 傷ついた古泉が見せる表情とか、 それでも無理やり感じさせられて泣くときの声が癖になった。 だから薬を何かに混ぜて飲ませて、 ひどい言葉ばかりをぶつける。 「誰でもいいんだろ?お前は、こうされるのが好きなんだからな」 「ち、ちが、違いますっ・・・!ん、ううっ」 「俺が好きならこんなふうにやられて感じるなよ」 「う、うっ・・・は、あ・・・!」 「乱暴にやられてイくんだったら俺じゃなくていいだろ。違うなら我慢してみろよ」 「ぼ、くは、あなた、がっ・・・あ、やだ、い、やっ・・・!!」 我慢なんかできるわけがない。 毎回強く擦られて中もぐちゃぐちゃにかき回されて古泉は耐えられずに泣きながら、達する。 嫌だ嫌だと言って首を振って体に力を込めて耐えようとするのに、 我慢できたことは一度もない。 そんな古泉を見て満足してから、犯す。 古泉が声も上げられないくらい泣いているのを真下に見ながら。 いつも、そう。 だから古泉は怖がる、俺に抱かれることを。 触れるだけでびくりと体をふるわせて顔は青ざめて、 俺に腕を回すこともなくなった。 自分から体を動かして俺を受け入れようともしなくなった。 好き、は、言う。 ただし前のように幸せそうに言う訳じゃない。 ひどい言葉をぶつけられるたびにそれを否定するために言う。 違います、僕はあなたが好きなんです、信じてください、本当なんです。 俺は分かっている、こいつがどれだけ俺を好きか、くらいは。 俺も好きなんだ、そんなお前が。 泣いて傷ついて苦しんで、なのに俺から離れられないお前が。 体も気持ちがいいし甘い声だっていつも聞いていたいしやるたびに可愛いな好きだなと思うんだ。 ただちょっと俺の性癖が特殊らしい。 好きな奴をめちゃくちゃにしたい、そんな願望がある。 俺だってお前にそうするまでは気付かなかったんだ。 古泉は元から細かったのにだいぶ、痩せた。 やった後はふらふらになってシャワーを浴びに行くのすら大変そうにしている。 飯を作っても自分の分は半分以上残すし、 眠りについた後に起き上がって吐いていたこともあった。 それでも、朝起きれば、笑顔を見せる。 朝食を作って、おはようございますと、無理して作った笑顔を。 そんな古泉を見ていたらせめて俺がお前を好きでこうしちまうということくらい、 伝えてやらないといけないな、と思うようになったんだ。 だから分かりやすいところに瓶を捨てておいた。 これは、3回目だ。やっと、気付いた。 「見れば分かるだろ」 「・・・これ、まさか、僕が」 「ああ。いつも飲ませてるぜ」 「!!!」 震える手から瓶がするりと抜けて床に転がる。 やっとさっき泣き止んで浴室に行ったのに、また涙が溜まっている。 「ど、して・・・こんな、ひどいです・・・!」 「使えば気持ちよさそうにするじゃないか、お前」 「よくなんか、ないです!いつも、辛くて、苦しい、だけなのに・・・ひどい・・・!」 珍しく怒っているみたいだ。それはそうだろう。 散々、お前の体がおかしいんだ、 やられれば誰だっていいんだろと言われ続けて謝ってきたのが、 全部古泉のせいではなく俺のせいなんだからな。 分かってて傷つけてた、 なあ古泉、許せるか?こんな俺をさ。 「信じ、られません・・・僕は、僕は、本当に、あなたが、好きだったのに・・・」 好き、だった、ね。 「ごめん」 「・・・今日はもう、帰って、ください」 「電車ないだろ」 もう深夜だ。 お前の相手をしているといつもずい分、時間がかかるんだよな。 ああ、また、泣かせてしまった。 唇を噛んで、床にぽたぽたと涙の粒を落とす。 やった後だからだろうか、 その姿を見てもいつものようにめちゃくちゃにしたくは、ならない。 「・・・一緒にっ、いたくない、です」 しゃくりあげるように泣きながらようやくその言葉を、言った。 涙が止まらない古泉の頭を撫でてから、俺は鞄を持つ。 金はないが、タクシーで帰るとするか。 寒いから外で過ごすのも無理だしな。 引き止められることもなく、古泉の部屋を出て階段を降りた。 マンションの前の道は、車の通りが少ない。 タクシーなんて乗らないから、電話番号も知らない。 さてどうしよう、さすがに夜は冷え込む。 寒さに震えながら考えていると、 ぱたん、ぱたん、と階段を下りてくる足音が聞こえて、振り向いた。 涙を拭って目元を赤く腫れさせた古泉が、近寄ってくる。 声をかけずにただ見ていると、古泉の方から話しかけてきた。 「すみません、こんな時間なのに・・・。朝まで、いても、大丈夫です」 「いいのか」 「はい・・・・・・」 結局そのまままた部屋に戻り、夜も遅いので眠ろうとベッドに入ると、 古泉は床にタオルを敷いて、横になった。 「そんなところで寝るなよ、風邪引くぞ。こっちに来い」 「・・・いいです、僕は、こっちで」 「よくない。ほら」 声をかけるだけじゃ動こうとしないので、 腕を強く引いて、ベッドに上がらせた。 相変わらずこっちを見ようもしない。 「・・・古泉」 俺に背を向ける古泉を、声をかけてから抱き寄せた。 小さな悲鳴をあげて一瞬にして体を強張らせる。 何もしないからそんなに怖がらないでくれ。 名前を呼びながら、首筋にキスをした。何度も、何度も。 痕が残るほどは強く吸わずに、 確か前にここを舐めたとき喜んでたな、 そんなことを思い出しながら舌を滑らせた。 シャワーを浴びたばかりだから、いいにおいがする。 暖かい体も、抱き締めると心地よい。 びくびくと反応する首筋も、どれも、愛しいと思う。 唇が欲しくなって、肩に手をかけて仰向けにさせて、 思っていた通り泣いている古泉の目元も舐めてやる。 今はしない、 ひどいことは何もしないから泣くな。 「古泉、好きだよ」 「・・・・・・・・・・」 「本当だ」 血の気を失った唇に、自分のを押し当てて音を立てながら舐めた。 口を開ける素振りはなく、開かせようと顎に手を当てたとき、 腕で体を押し返された。 仕方なく唇を離すと、逃げるようにベッドから降りていく。 両手で顔を覆って、肩を小刻みに震わせているのを見れば、 また泣いているのが分かる。 「好き、だったら、こんなこと、しません」 普通は、そうなんだろうけどな。 「ひどいことっ、ばかり、言われました」 勿論、忘れたわけじゃ、ない。 お前に言った言葉は、全部覚えてる。 「お前の泣き顔が好きなんだよ、俺」 「な、に・・・」 「お前が傷ついて悲しむ顔に、興奮するんだ」 「・・・・・・・・・」 「好きなことに変わりはない。理解しがたいだろうけど」 振り向いた顔は戸惑いの色を見せていて、 何を言ったらいいか分からないらしい。 お前が受け入れるかどうか分からないが、 どちらでも俺はまた同じことを繰り返すだろう。 「それでも俺を好きなら、付き合ってくれ」 「・・・・・・・・・・・・」 「無理?」 俯いたまま、指だけがゆらり、と動いている。 首を縦にも横にも振らないまま、 しばらく時間が過ぎた。 「・・・・・・・・・怖いです、すごく・・・」 ようやく搾り出すような声でそう言って、 力なく、俺の手を掴む。 「・・・ちゃんと、終わったら、好きって言ってください」 ・・・そんなことで、いいのか? 掴まれた手を引き寄せて抱き締め、何度も耳元で言ってやった。 それに応えるように古泉の腕が恐る恐る、俺の腰に回る。 そのまままた口付けて、久々に、 優しい言葉ばかりを並べて古泉を抱いた。 泣いていたが、辛くて苦しくての涙では、ない。 疲れ果てて眠ってしまった古泉の髪を撫でながら、 大事にするのも悪くはない、と思った。 幸せそうな顔も好きだ。 どんな古泉も好きだ。 だからまた、違う顔も見たくなる。 ごめんな、古泉。 これからも泣かせるだろうけど、 分かって欲しい、 ずっと、俺に付き合って欲しい。 愛の言葉ならいくらでも心の底から、伝えるから。
こ・い・ず・み いい子!! 従順すぎるんだぜ・・・
痛い系はほんとキョンがアレでソレな感じですみません。
いつもあとがきで謝ってる気がします!