細い腕、冷たい腕、血が通っていなさそうな、白い腕。
こいつには健康的なものより、そういうのが似合う。
初めて会って握手を交わしたときよりも、痩せたな。
色も、白くなった。
俺の好きなものに、近づいていく。

毎日のように何度も何度も指を突っ込んで、
頭と体の中をぐちゃぐちゃにして、
こいつが何も考えられないようになればいいと、
そしてもっともっと、
俺の思い通りの姿かたちになればいいと思う。


抵抗はしない。
口で抗議の意を示しても、
ねじ伏せてやれば言うとおりにする。全てを受け入れる。



好きだから、なんて、
ただそれだけの理由じゃないだろう。
抵抗して俺から離れようとしたって、
ハルヒがいる限り完全に離れることなんか出来ない。
だから言うことを聞き続けるしかない、



俺はそれを利用しているだけだ、
古泉じゃないと出来ないことを、するためだけに。




白冷




ふらふらと浴室へシャワーを浴びに行って、
戻ってくるまでの時間はかなり長い。
後処理に時間がかかるのは分かるが、前はこんなにじゃなかったな。
何度か様子を見に行ったことがあるが、
頭に血が回らずに体を思うように動かせず、
時間がかっているだけらしい。
放っておけば、自分でして、戻ってくる。
ちゃんと呼吸を整えて。
パジャマのボタンも一番上までして。
さらさらとなびく髪だけはいつまでも、綺麗なままだ。



時間も遅いから俺はベッドに先に入って、目も瞑る。
だけどどういったことか、
古泉が戻ってくるまでは、眠る気にならない。
夜も遅いのに、やり終わったときは眠くて仕方がなくなるのに、
眠れない。
理由はよく分からないから、考えるだけ無駄だろう。


古泉は俺が寝ていると思っているらしく、
いつも恐る恐る、起こさないように、布団を持ち上げて入ってくる。
そして、体に触れないように、ベッドから落ちそうな端の方に横たわり、
目を閉じる。古泉が完全に眠るまで、その体は少しだけ、震えてる。



規則正しい静かな寝息が聞こえてきたら、
やっと俺も安心して眠れる、・・・安心?
何の安心だか。







「・・・・・・古泉?」


まだ薄暗い早朝、何気なく伸ばした手が横にいるはずの古泉に当たらず、
目を開けた。まだ、ベッドは暖かく、古泉の体温を残している。
重たい体を起こすと、トイレの方から明かりが漏れていることに気付く。


また、吐いてるのか。


たまにあることだ。
ほとんど、飯も食わないのに。
毎日、俺のためだけに夕食は作るけど、自分の分は食べない。
数口入れただけで、箸を置く。
たまにハルヒに付き合わされて外で食うときは相当無理をしていて、
それでもハルヒの前で笑顔は崩さない。
家に帰ってきてから、
間に合わないときは近くの店で、トイレに駆け込んで、
しばらくそれも、戻ってこない。




今夜も、一体いつから吐き始めたのかは知らないが、
時間がかかりそうだな。
こんなに毎日、食べずに吐いてばかりで、大丈夫なのか?あいつは。
そのおかげであいつが俺の好きなように変わっていくのは嬉しい、
だけど、あいつが倒れでもしたら困る。
あいつの相手をすることだけが、俺の楽しみなんだから。






「おはようございます。朝ごはん、出来てます」


眠りから目を覚ませば、いつもの声が聞こえてくる。
休日、古泉が俺を起こすことはない。
それでもいつもタイミングを計ったように朝食の準備をしていて、
やたらと優しく甘い声で話しかけてくる。
朝には弱い俺でも、不機嫌になったことはない。
古泉はよく分かっているな、と思う。



「今朝・・・何?」
「メロンパンを作ってみました」
「凝ってるな、朝から・・・」



甘い匂いの元はそれか。
お前、何時に起きてるんだ、いつも。
パンを作るなんて相当時間がかかるものなんじゃないのか。
しかも、旨いし。



「お前、食わないの」
「先ほど、済ませたので」
「ふーん。待ってろよ、俺が起きるまで」
「・・・すみません」




食べていないことを知っている。
俺が声のトーンを下げて言葉を放つと、
柔らかい笑顔が一瞬にして曇るのも知っている。




旨いよ、と一言でも告げてやれば、
今隣で俯いたままの顔も明るくなるんだろう。
前に古泉に優しい言葉をかけてやったのは、いつだったか。
ひどいことをするのは好きだからだと伝えて、
全て受け入れるから好きだといつも言ってほしい、
そう願われて首を縦に振ったはずなのに、
随分とそんな言葉は口にしていない。
古泉から、言ってほしいと言われたことも、ない。






何も言わないまま朝食を終えて、
片づけを終えた古泉を、いつものように床に押し付けた。
もしかすると、俺よりも軽くなっちまったかもな。
こんなに簡単に押さえ込まれるほど、ヤワじゃなかっただろ。




「い、たいっ・・・!」



古泉のネクタイで、限界まで腕を縛り上げて、
床にうつぶせにさせる。
シャツの間から手を滑り込ませて触れてやれば、
すぐに体を震わせて声を上げる。
腕の痛みなんか、すぐに感じなくなるよ。
お前はそういう奴だから、そう、したんだから。



ぼたぼたと床に落ちるくらいローションをかけて、
ただ古泉をイかせるためだけに指を入れていく。
俺がどうこうしたいわけじゃない、
そんなのは夜、寝る前だけで十分だ。
ただ、二人でいるときに他に何をしたらいいか分からない。
ボードゲームは部室でやればいい、
古泉の部屋に二人でいるんだから、
古泉のこんな姿を見る以外、やりたいことなんてない。



俺にはよく分からない、古泉にやらせようなんて絶対に思わない、
指を入れてすぐのところを強めに撫でてやると、
古泉はあっという間に達しちまう。
それが面白くて、何度も、繰り返す。
呼吸すらまともにできずに、体を震わせる古泉の姿や声は、
俺の心を満たしていく。
こいつは俺のものだ、
古泉を支配しているのは、俺だけだという感情で。



「くる、し、です、たす、け・・・」




指の動きを止めたときに聞こえてくる懇願するような声、
そうだな、
いくら、指が痛いくらい締め付けてくるといったって、
無理やりだからな。気持ちいい、なんてものじゃ、ないんだろう。
いい加減慣れればいいのに古泉の体が敏感すぎるのか、
俺のやり方が乱暴なのか、
やればやるほど古泉はおかしくなっていく。
せっかく整っていた髪を振り乱して、
腕の拘束から逃れたいと必死に動かして、
もう掠れた呼吸しか聞こえないのにそれでも喘ぐし、泣く。



古泉、苦しいだろ、
あと2回やったら、止めてやるから。












暇つぶしにはなる雑誌を読んで、夕食の支度が終わるのを待っていた。
途端、床に何かがぶつかる大きな音がして、驚いて目を向けると、
まな板と一緒に古泉が床に倒れていて、切られた野菜が散らばっていた。




「おい、どうした」
「すみ、ません、立っていられなくて、」
「大丈夫かよ・・・横になってろ」
「でも、ごはんの、準備が」



こんな状態じゃ、まともな飯なんて作れないだろ、どう見ても。



「いい、俺がやってやる。スープだろ?このくらいならできる」
「え、でも、そんな・・・」



頭に血が回っていないのか、俺を見上げ続けるのすら辛いらしい。
俯いたまま小声で謝る古泉を抱え上げて、ベッドに横にさせた。
散らばっていた野菜をかき集めて洗って、鍋の中に突っ込む。
とりあえずコンソメの素でも入れておけばそれなりに仕上がるだろう。

家庭科の授業は嫌いなわけじゃない、面倒なだけで。
自分で何か作るというのは面白いものだ。
というわけで気が向いた、
古泉がいつも見ている本を見て、
載っている料理を冷蔵庫にある食材で適当に作ってみる。


我ながら悪い出来じゃないな。
けど、古泉がいつも作る味には負ける。
まあどう見ても俺よりあいつの方が、こういうのは得意だろう。



「古泉」
「・・・ん、」
「寝てるのか」
「・・・あ、すみ、ません。ごめんなさい、夕飯、途中で」
「俺が作ったから食え」
「え・・・」


青白い顔のまま起き上がって、
テーブルの上に並べられた料理を見て、目を丸くしている。
俺がこんなことするとは思わなかったか?
一度も、作ってやったことなんか、なかったもんな。


「あなたが、全て?」
「俺しかいないだろ」
「あ・・・ありがとう、ございます」


震えた手で一口ずつ、口に運ぶ。
そんなわけないだろと思ったが、
そのたびに古泉はおいしいです、と呟いた。
俺はお前が作った飯のほうが何倍も旨いと思うよ。



いつもならすぐに箸を置くのに、
今夜だけはゆっくりながらも食べ続けて、
古泉の分、と取り分けたものは全て食べた。
なんだお前、食えるんじゃないか。
こんな味の方がいいのか?
毎日作るのは無理だぞ、俺には。






「おいしかったです、ごちそうさま、でした」


丁寧にお辞儀をしてそんなことを言って、
その声が、泣き声だったから、
頭を掴んで見てやると思ったとおり目に涙を溜めていた。



「何の涙だよ、それ」
「ごめんなさい、う、嬉しくて、」
「は?」
「あなたが、作って、くれて、うれし・・・」



そのまま、口を塞いで声が漏れないように、
泣き出した。
泣き過ぎ、だろ、こんなことで。






笑わないんだな。
お前の笑顔、ハルヒの前以外で見てない。
笑うかな、と思ったけど、違った。
もう俺の前じゃ、笑わないのか、お前。




それならもっと、泣かせてやろう。




「古泉」
「はい・・・すみません、片付けは、僕が」
「それは後でいい。口開けろ」
「口、ですか?」



後頭部を押さえて、
もう片方の手の、指を二本、喉の奥に、入れていく。





「あ、あ・・・!?い、いや、やめてください!」
「黙ってろ、抵抗もするな」
「何を、される、つもりなんですか」



弱弱しい手が俺の腕を掴む。
分かるはずだ、
お前が毎日、自分でやってることなんだから。




「また深夜に起きるんだろ?俺がやってやる」
「! いやです、今日は、起きない、から・・・」
「そんなの分からないだろ。おとなしくしてろ」



どのあたりまで指を突っ込めばいいんだろう、
俺はそんなになるまで吐きたくなったことがないから
分からない。ただ一度見たときは、随分奥まで入れていたよな。




「ごめんなさい、ごめんなさい、僕、それだけは、いやですっ」
「駄目だ」
「あなたが、作ってくれたのに、吐きたく、ないっ・・・!」





その後も、泣きながら何かを言ってきた。
やめてほしいと、懇願してきた。




だけどそう願われれば願われるほど、
やりたくなる。
そんなにお前が嫌がる行為だ、
どんな顔をして、やられるんだろうと。




「手、噛むなよ、腕も掴むな」



再度頭を固定して、口を開かせる。
小さく震えながら首を振っているが、
抵抗できないことも最初から分かっていたはずだ。



「う、う、ううううっ・・・!!」



カーペットに爪を立てて、古泉の体が、硬直する。
暖かい口の中、
奥まで指を入れて、舌を強く押してやった。





小さかった震えが大きくなる。
床に落ちるくらいの涙を零して、古泉は必死に、耐えている。
呼吸だってまともに出来ないだろうに、
我慢しようと思えば、できるものなんだな。


今日だけ特別なんだったら、
俺の作った飯を食べたから特別なんだったら、
それはそれで嬉しいよ。
嬉しいけど、やっぱり、駄目だ。
ひどいことをしたくて、たまらない。



「・・・・・・・・・!!!」




そんなことを考えていたけど、
たぶん時間にしたら3分にも満たなかった。
我慢できる、と言ったって、
他人に喉に指を突っ込まれれば、限界がある。



古泉が喉の奥から悲鳴をあげて目を閉じたすぐ後に、
指に口内よりも暖かいものが触れた。
そしてそれはすぐ、床に音を立てて落ちていく。



咄嗟に指を抜いたが俺の着ている服も袖や、
腹の辺りから床に至るまで濡れている。
消化は・・・あまり、始まってなかったみたいだな。
さっき食べたばかりなんだから、当たり前か。




「う、っえ・・・」




しばらく咳き込んだあとに、両手で口を押さえている。
もう出ないように。
まだ、だよな、もっとちゃんと食べたもんな、お前。




「あう、う、うう」




息がうまく吸えないのと、泣いているのと、
あといろんな理由のせいで、
言いたいことが言葉になっていない。
でも俺にはわかる、
いやだって言いたいんだよな。
これ以上はもうやめてほしい、と。
だったらお前にも分かるはずさ、
何も言わなくたってその答えがな。


「あ、っく、あっ・・・!!!」



いったん出してしまえば、そこからは早いらしい。
古泉はいつも何に時間をかけていたんだ?
随分長いこと、毎晩、戻ってこないじゃないか。
自分でやると躊躇でもするんだろうか。




体の中から、戻ってくる。
床も、俺の服も古泉のも、汚れてく。

たぶんこれは汚いものなんだろうけど、
不思議と気持ち悪くはなかった。
古泉の体の中から出たものは、なんだって、そうだろう。


これ以上は入らないというくらい指を奥まで入れて、
何度も何度も吐かせてやるうちに、
何も出てこなくなった。
これで全部らしい。
結構な量になるものだ、皿に乗ってたのより多く見える。




やっと、ちゃんと指を抜くと、
それが合図だったように体が前に倒れた。
肩で受け止めて、名前を呼んでみたが、返事はない。
気失っちまったか?この状態で。
後片付け大変だな、一人でやるには。




「古泉ー」



汚れた手のままだが、肩をゆすって、何度も呼びかける。
目は、開いてる。
ただ、視点は定まってないようだ。



もう少し大きく揺らしてみるとやっと気がついて、
服や、床を見て、また、泣いた。


水分だってそんなに取ってないのに、
どこから涙が生まれるんだ。
お前の体は、まだ俺には理解できていない。





声も出ない様子で泣き続けて、
テーブルに置かれた布巾で俺の体を拭いた。
がくがくと震えているせいで、
全く上手には出来ていなかったが。
洗濯して、風呂に入ったほうが早いだろ。
この床は・・・しばらく、匂いが残りそうだな。









thank you !




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