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「じゃああいつらに言ってやるよ。俺はお前が好きだって」 そうすればもう不安にならないだろ。 大学に入ったって、社会人になったって、 俺にはお前という、 こい…恋人が、と、 いうのは照れくさいが、いるんだと、全員に言ってやる。 「だっ…駄目です、涼宮さんの捉え方次第では、 閉鎖空間が発生するどころの話ではなくなります」 「言ってほしいのか、言ってほしくないのか、どっちだ」 「それは……それは、あの。う、うれしいです、けどっ」 いつかは言うことになるんじゃないかとうっすら思っていた。 今までは隠し通せたが、俺は古泉とは勿論、 ハルヒ達とだってこれからも仲良くしていきたい。 それなら言っておいた方がいいかと思うんだ。 うっかり不慮の事故でバレるよりも、気持ちがいいだろ。 正々堂々と伝えてそれでも特大の閉鎖空間が出来上がるんだったら、 それはそのときだ。 「それに春からは、お前と一緒に住みたいと思ってたし」 「え! 本当ですか? 僕と……?」 「大学も違うところだし、毎日会うためには住むしかないだろ」 「は……はい」 長いこと一緒にいるが偏差値の距離感だけは縮めることができなかった。 同じ大学に行けるとは思っていない。 お前が俺のレベルに合わせるのも駄目だ。 9組の担任に恨まれる、ってのはどうでもいいが、 お前はちゃんとお前が学びたいことを学んでくれ。 …古泉がそうなるように、俺だって少しは心配だ。 鏡をよく見てみろよ、 大学に入って女子から黄色い声を浴びるのは明らかに俺じゃなくてお前の方だぞ。 俺以外の誰かの方がお前を見ている時間が長いとか、そんなのは御免だ。 ということは一緒に住めばいいじゃないかと、 前回の中間テストの結果を見たあたりから思い始めていた。 それにしても、さっきから、見ていて笑いそうになるくらい表情が変わるな。 ハルヒ達にこんなお前を見せたら驚くぞ。 で、また泣きそうになる、と。 「お前は、放っておけないからな」 「な、なんですか、それ ……」 「俺が一生面倒見てやる」 俺がそう言ってからしばらくきょとんとして、 数十秒後にやっとその言葉の意味が分かったらしい古泉は、 俺の背中に腕を回して顔を髪にうずめた。 泣いてる、 腕も、 抱き締めた体も震えている。 お前にもプライドってもんがあるだろうから、 黙ってこうしていてやるよ。 分かったか? 俺がどれだけお前に惚れてるか、が。 そういえばもうすぐ、お前の誕生日だったよな。 ちょうど休日だから、ハルヒからの呼び出しがかかることは間違いなさそうだ。 毎年SOS団員の誕生日は集まって何かしらやらかすし。 とはいっても俺と古泉の誕生日は質素にされがちで、 去年も一昨年も飯を奢ってもらえただけで派手なサプライズはない。 朝比奈さんや長門の時はハルヒが力を入れて祝うために俺達をこき使うし、 ハルヒの誕生日そのものは、二ヶ月前から俺らが計画してやってるのに…。 まあいい。 今年のお前の誕生日は、俺がサプライズを起こしてやるよ。 下手すれば世界が大爆発を起こすようなとびきりのやつだ。 それでもいいだろ。 幸せになりたいんだったらそれくらいの覚悟は必要だ。 「本当に、言ってくれるんですか」 「男に二言はない。それでお前は安心するんだろう」 「はい………僕、うれしいです」 「お前が嬉しいんだったらそれでいい」 「…すみません。さっき、不機嫌になったりして」 「俺も悪かったからな。とりあえず信じろ、少しは」 「信じます。僕、もう、あなたのことで不安になったりしません」 「おう」 さて、決戦は来週の土曜日か。 どんなタイミングで切り出すべきか、 恐らくハルヒはとんでもないでかい声をあげて驚くだろうから、 外にいるときがいいだろうな。 出来れば公園とか、そのくらいだだっ広いところがいい。 雨が降らないように祈ろう。 ******** 「古泉くんっ、誕生日おめでとう! 今日はあたし達が皆で奢るから、好きな物じゃんじゃん頼んじゃってね!」 いつものファミレスで、どんなに高い料理でも二千円は超えないところで、 ハルヒはいつものように太陽を至近距離で見たかのような輝かしい笑顔を向けて、 本日の主役である古泉にメニューを差し出した。 「ありがとうございます。今年もこんな風に祝っていただけて光栄です」 そして古泉もいつもように人間国宝と認定された著名人のような恭しさでそれを受け取る。 ただ少しだけ、額に汗を浮かべて。 俺がいつ切り出すのかちらちらと様子を伺ってくるのが分かる。 そんなにすぐは言わないから、 言えないから、お前の食べたい物を選べ。 消化がいいものにしろよ、一応な。 「古泉くんおめでとう。これ、大したものじゃないんだけど… 古泉くんに合うかなあと思って、選んだ茶葉なの」 「ありがとうございます、いい香りがしますね」 「…あなたに渡す」 「長門さんまで。これは書籍ですね。ありがとうございます、 後でゆっくり読ませていただきます」 「古泉くん! あたしもあるわよ! はいっ、三年間ありがとうってことで、名誉副団長の腕章っ」 ハルヒ…また手書きじゃないか。 しかも殴り書き。 今朝あわてて準備したんじゃなかろうな。 「これは嬉しいですね。大切に保管しておきます」 「うんうんっ。古泉くんにはお世話になったからね! で、キョン、あんたは何もないわけ? この流れで」 「俺はない。飯奢るの俺でいいぞ」 「一番楽なところを選んだわね。罰として全員分奢りなさい!」 どうしてそうなる、と喉の先、いや舌の先まで出かかって飲み込んだ。 今日はハルヒの機嫌を損ねるわけにはいかない。 財布の中は寂しい状況だ、俺は俺で古泉にプレゼントの準備くらいはしている。 今は渡さないだけで。 更に五人分の昼飯か… 頼むからそのステーキ定食ばかりのページを閉じてくれ、ハルヒ、長門。 結局予想以上の出費となったが、 ステーキを食べ終えたハルヒは誰がどう見ても上機嫌だ。 背に腹は変えられない、また親の手伝いに精を出して小遣いを稼ぐことにしよう。 「それじゃあ恒例のくじ引きでペアを決めるわよ!」 食後のパフェにまで手を出し始めているがそれも黙認して、 「待てハルヒ。今日は古泉の誕生日だし、 たまには五人で出かけるってのもいいんじゃないか」 「ふうん、キョンにしては気がきいたことを言うじゃない。 古泉くん! 古泉くんはどうしたいの? 聞いてあげるわ」 「そうですね、皆さんで一緒に公園にでも出かけたいな、と」 「天気もいいし、あったかいから、いいかも。そうしましょ!」 かくして俺達の計画通りに公園に行くことになり、舞台は整った。 深呼吸をしてから空を見上げると、雲ひとつない晴天が広がっている。 まさに、決行日和とでもいうべきか。 深呼吸を繰り返しているうちにハルヒは朝比奈さん、 長門を連れて公園を駆けている犬と戯れ始めていた。 笑顔にもいささかの緊張感を滲ませる古泉の隣に突っ立って、その様子を見つめた。 いつもの光景だ。 ハルヒが二人を連れ回してはしゃいでいるのを、俺達がこうして見守るのは。 ずっとこうしてきた。古泉と、俺は。 そしてこれからも、ずっとだ。 「緊張してきたな、少しばかり」 「僕は緊張しすぎてそろそろ笑顔を保てなくなりそうです」 「昨日の練習、おかしくなかったよな? あれでいいよな」 「は、はい、大丈夫だと思います」 古泉が好きだと伝えるだけじゃない。 そんなことを言ったってハルヒは反応しづらいだろう。 俺が言うのは、もっとすごいことだ。 古泉が18歳になるから、やっと今日、言える。 「よし。ハルヒが戻ってきたら言うぞ」 「はい………」 犬との交流を終えたハルヒ達は、笑顔で戻ってきた。 「犬って賢いのね! 下手するとキョン、あんたより賢いかもしれないわ」 楽しそうに話すハルヒに適度な相槌を打ってやり、 ようやくその話が終わった時に、俺は切り出した。 「話があるんだが、いいか」 「何よ? 改まっちゃって」 ここで終わるなら終わればいいさ。 だけど俺は終わらないと信じている。 そんな簡単に消えていいような運命じゃない。 ハルヒに出会ってSOS団に強制加入させられたことも、 朝比奈さんに過去に何度も連れて行かれたことも、 長門の笑顔をたった一度きりでも見れたことも、 古泉に出会って、俺たちがどうしようもないくらい想い合ってしまったことも、全部だ。 ハルヒは、消さない。 「ハルヒ、朝比奈さん、長門。……俺、」 古泉と、……………… →「乾杯!」
こんな感じで乾杯に続きます(´∀`)
キョンと古泉は周りが呆れるくらいラブラブでもいいです!