バレンタインには、チョコレートとストラップをもらった。
当日になるまでそのイベントを忘れていた俺は、
ハルヒや長門、朝比奈さんにもらった分だけで満足していた。


翌日古泉は紙袋いっぱいに女子からチョコレートをもらって部室に現れて、


「さすがは古泉くんね。
 副団長として、女子に人気があるというのは喜ばしいことだわ」


というハルヒの賞賛の言葉をまんざらでもなさそうな笑顔で受け取った。
その様子が気に入らなかった。
お前は俺の相手だけしてりゃいいのに、
他の奴に愛想を振りまいてるんじゃねえよ。
俺が手を引いてやればいつも泣きそうに顔を歪めるくせに。
何も知らない奴が古泉に好意を抱くことに、
なぜか腹が立った。



二人きりになってからおずおずとバレンタインの、
とか言いながら紙袋を渡してきて、
それまでのストレスと、
古泉が売り場でこんなもんを買ったせいで知らない誰かに
変な目で見られてやいないか、
もしそうなら無駄なことをするなと益々苛々して突き返した。



俺が喜ぶとでも思っていたのか、
古泉は心底傷ついたような表情で俯くから、
その包みを自分の鞄に押し込めてから床に押し倒した。



家に着いてから、
チョコレートだけじゃなく一緒にストラップまでついていたことに気付く。
透明なブルーの、綺麗な形をした、
・・・驚くくらいに趣味に合う、
この無趣味の俺がそう思った。




それはずっと、部屋にある。
机の引き出しを開けてすぐのところに。
嬉しかったからといって携帯につけていけるほど、
俺は古泉と良好な関係を築けてはいなかった。






0314-side kyon






それから1ヶ月、
ハルヒ達への礼を済ませて部室にはまた二人きりになった。
朝比奈さんが小走りに去っていって、
その栗色の髪が見えなくなってすぐに古泉の背中を押した。




先ほどまでは穏やかな笑顔を浮かべていた、
それが今ではすっかり青ざめて、
椅子に座って足も腕もぶるぶると震わせている。



無理はない。
ここ数週間ハルヒたちへ何をするか二人で話していたとき、
こいつはやたらと楽しそうだった。
ああそうかい、
そんなにあいつらのチョコレートが嬉しかったか。
じゃあ抱えきれないほど持っていたチョコレートを渡してきた相手にも、
こんなふうに嬉しそうに礼を考えるわけか、と。
話が一段落するたびに、頬を、頭を、体を殴った。
古泉の笑顔が一瞬にして消えて、
「どうして?」と言いたくても言えずに戸惑う様子は、
心が痛む、なのに、やたら興奮した。




何度傷つけたか、数え切れない。
何度泣かせて、
何度謝らせて、
何度、
「嫌わないで」
と言われたか。








俯く古泉の名を呼んで、
古泉が先月そうしたように、紙袋を渡してやった。



渡した瞬間、
俺に怒られないように涙を堪えていたのに、
いつもならぎりぎりまで我慢するのに、
いとも簡単に涙を零した。
ただ、悲しそうにではなく、
嬉しそうに。
今まで見たことがない泣き方だ。



「あり、が、と・・・・・・ごっ・・・・・・」



消えそうなくらい小さな声で繰り返し礼を言う。
俺が考えていることなんか、
想像もしていないんだろう。
何が入っているかなんて、
もらえるなら何だって嬉しいとか、
思ってるはずだ。
古泉はそういう奴だと、知っている。




幸せそうに笑う顔が嫌いなわけじゃない。
むしろ、好きだった。
なのにいつからこうなったんだ?
本音を伝えてこない古泉にいらいらして、
嫌なことがあるならはっきり言えと言った俺に
困ったような笑顔しか見せなかったのが原因だった?
あの時に、殴ったのが? 









中を見て泣き出した古泉の頬をまた、強く打つ。
泣かれたくないのに、
泣かせたい。
矛盾しきった考えで、
三度も。
力の加減が出来ずに思ってたよりも真っ赤に腫れ上がる。
やりすぎた、これじゃ、痕が残る。



古泉は今目の前でがたがたと歯を震わせて、
必死に泣くのを堪えている。



嫌いじゃない。
俺は古泉が、嫌いじゃない。
好きだからこうして付き合って、
男同士にも関わらず肌を合わせているんじゃないか。
やり方なんて分からないから、いつも泣かせてしまう。
たとえ普段うまく話が出来なくても、
やるときだけは古泉も楽しめればいいと思うのに、うまくいかない。
やっと古泉の気持ちよさそうなところを見つけて、
そこを撫でれば高い声をあげて射精するようにはなった。
だけど表情を見れば分かる、
古泉はちっとも気持ちよさそうじゃ、ない。
どうすりゃいいのか、
古泉がよくなるように、
考えてローションもこれも買ってきた。
俺自身じゃなくてもいいから、気持ちよくなれば、いい。




今も。




「ひああっ・・・!!!」
「一回目」
「はあっ、あ、ああ」



指じゃダメだ。
こんな刺激じゃ、足りないだろ。
箱から取り出したものを、
先端だけローションで濡らしてからあてがう。
古泉の体に、一気に緊張感が走った。




「ああうっ!?な、な、に・・・っ!」




さっき、見ただろ?
知ってるよな?
使ったことなくたって、
何をする道具かは一目瞭然だ。



古泉の問いかけには答えずに、
まだ慣れてるとは言い難いそこに、強引に入れていく。
体は拒絶反応を示していて、
受け入れる気なんかなさそうだ。
それでも構わずに入れてやると、
いつもは出さない悲鳴を上げる。

大丈夫、痛いのはきっと今だけだ。
気持ちよくなるはずだから。



指だけでもキツいってのに、
入れてみれば入るものだ。
こんな、いつも、広がっていたのか。
すごいな、お前の体。


「やああああっ・・・!!」


ごりごりと中を擦るように奥へ進める。
古泉の指は力いっぱい頭をかきむしって痛みに耐えようとしているのに、
声は自然と漏れてしまうらしかった。
あの場所を強く擦ればまた射精して、
そろそろいいだろうとスイッチを弱に合わせ、
力の抜けた体の奥へと進めてやる。
弱、って言っても予想よりはよく動く。
気持ち・・・いいかな、これ。



「いや、っいや、あ、あう、い、痛い、痛い痛いっ・・・!!」
「まだ弱だ。我慢しろ」



期待しているのとは随分違う反応が返ってくる。
腕が何度も俺をはねのけようと伸ばしかかり、
そのたびに寸前で引っ込んだ。
もっと、奥まで突っ込みたい。
抵抗を反射的にしてしまわないように、
久しぶりに腕を縛り上げた。
膝は古泉の体に入っているそれを押して、
できるだけ奥まで入れてやる。



「いああああああ!!」



最近は聞いていなかった叫び声が耳に響く。
何をしたって声を殺して泣くばかりだったのに、
お前にもまだ我慢できないこと、あったんだな。


やめてくれって言うのは、
理性で頭が吹っ飛ぶのを抑えてるからだろ?
こんなことをされて気持ちいいわけないと思ってるから、
感じなくなるんだ。
最初からお前はそうだった。
俺が指を入れるだけでこんなのは普通じゃないと泣いて、
半ば無理やり体を繋げたあとはしばらく話すらしてくれなかった。
俺は、嬉しかったのに。
お前も、喜べばいいと思ったのに。



頭で考えるなよ、
普通じゃなくたっていいじゃないか。
好き同士ならこうするのもしたいのも当たり前だ。
おかしくなる、って言うなら、なっちまえ。
無駄なことは考えずに、
楽しめばいい。
そうじゃなきゃ、
毎回無理やりやるしか、ないから。



「・・・古泉っ」


がん、と鈍い音が聞こえる。
はっと気付いて古泉を見ると、床に頭を思い切り打ち付けていた。



「バカ、やめろ」
「ひう・・・・・・」



すぐに頭を掴んでやめさせる。
力の加減を知らないのか頭は切れて血が流れていて、
その赤を見てとっさにまずいと感じた。
中から引き抜いて、床に転がす。
ひくひくと腰を震わせて、
古泉は必死に呼吸を戻そうと息を吸う。




「あ、あ、ご・・・め、はあっ・・・」
「血、出てる・・・古泉、息できるか」
「ごめ、なさ、あ、あう、な、さ、」
「いいから、落ち着け」


呼吸しやすいように体を起こして、背中を撫でてやる。
虚ろな目には何も写っていないように見えた。



「古泉、わかるか?俺のこと」
「はあっ、はあ、はい、わか、ります」



この様子じゃ、今日はもう、無理かもしれない。



「・・・まだ、キツそうだな」
「だい、じょぶ、つづ、きを・・・」
「無理だろう、もう、今日は」
「平気です、僕、僕、頑張り、ます、」





苦しげに息を吐いていたのに、
古泉は、笑って見せた。




「うれし、かった、から・・・・・・」





それは、
本当に、
嬉しそうに。





俺はお前を傷つけようと思ってこうしたわけじゃない、
が、
すごく、胸が痛くなる。



怖かったか、これ。
気持ちよくなかったのか。
古泉、
お前、
どうしたら気持ちよくなるんだ?



「あ、ああ、あああ」



無理やり広げられてローションは膝まで垂れて、
それを指ですくって先端に塗り付けてから中に入れていく。
さっきよりは、
苦しくなさそうに見える。




前は、ちゃんと気持ちよかったよな?
中で感じ始めたころ、気持ち良さそうにしてたよな?

お前がそれを否定したがるから、
俺の行為はエスカレートしちまった。
没頭させたい、
気持ちいいことで頭がいっぱいになればいい、
ずっと、
そう思ってた。



「こいず、みっ」
「あ、あう、うんっ」
「きもちく、ない・・・?」
「はっ、あ、あ、あぁっ」



聞けばいつも、泣きながら、気持ちいいです、と言う。
今日は、言う余裕がないらしい。
苦しげに息を吐くだけで、

言葉らしい言葉を発することはなかった。












ぐちゃぐちゃのまま横たわっている古泉を引き寄せる。
落ち着くまで背中でも撫でていようか、と。
だけどすぐに押し返されて、


「すみま、せん、大丈夫・・・」


笑顔で言った後に、また、倒れた。
今までなら、俺が帰るまでは起き上がって笑顔で見送っていたはずだ。
虚ろになっていく目を見て、焦りを感じ、体を揺さぶる。


「おい、寝るな」
「・・・ふ・・・」




みるみる青くなっていく顔色、
何を言っても、
俺を見ない。




「古泉、古泉!」




意識を失うことはなかった、今まで一度も。






あれ、
お前の体、
前はこんなに細かったっけ?
髪ももっと、柔らかくなかったか?
真っ白だった体、
青く残ってる痣は、
全部俺が?




「古泉・・・」




なんの反応もなくなった。
血の気が引いたが、うっすらと呼吸はしている。




顔や体をティッシュで拭って、制服を着せて、
敷いたブレザーの上に寝かせる。
赤と白で汚れた床も雑巾で気付かれないくらいまで擦った。
血はなかなか落ちなくて、
今まで古泉はどんな気持ちで掃除をしていたんだろう、と考える。
想像しただけで体が震えた。




こんなはずじゃなかった。
俺はただ、
古泉と、恋人らしい付き合いをしたかった。
どこかに遊びに行ったり、
うまいものを食べたり、
そのたびに好きだとか感じて、
抱きあうときには、
もう世界に古泉さえいればいいと思って、
古泉にもそう思ってほしかった。
お前には、俺だけいればいい。
俺にも、お前しかいらないから。
だけどそうは、ならなかった。





家まではタクシーで連れて行って、
ベッドに横にしてずっと頭を撫でていた。
帰らなきゃいけない時間が迫ってきた頃にやっと、
鞄から別の包みを取り出す。
古泉、
本当はちゃんと、用意していたんだ。
お前に、
お前が怖がらずに俺を見てくれたときに、
渡そうと思ってた。



ボタンを外して首にかけてやる。
ここのところずっと、学校帰りに毎日探してようやく見つけたネックレスだ。
お前を俺だけのものにしたい。
嬉しいことも楽しいことも悲しいことも辛いことも、
俺だけに与えられればいい。



「・・・それじゃ、嫌か?」




きっと目が覚めていたら、泣きながらそれでいいです、と言う。
前はこいつの完璧な笑顔が大嫌いだったけど、
今は泣いていても嘘をつく。
そうさせたのは俺だ、
でも、
今、
古泉の本心をどうやって知ればいいんだろう?




「ごめんな」




ごめん。古泉、ごめん。
こんなやり方ばかりで、
お前を傷つけてばかりで、ごめん。
本当のことを何も言えなくして、ごめん。







目が覚めたら教えてくれ、
一度だけでいいから本当のことを言って欲しい。
俺が何をしたら、
何を言えば、


お前は俺だけのものになる?




thank you !

すれ違い大好きー!(悪趣味
気持ちよくなっちゃうことを怖がる古泉については
非常に(個人的に)萌えるので詳細を書きたいです。

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