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「たまには豪華な夕食もいいわよね!」 ある晴れた日の夕暮れ時にSOS団団長涼宮ハルヒが高らかな声でそう言って、 僕たちは焼き肉屋に行くことになった。 夕焼けが綺麗で、 その鮮やかなオレンジ色を見ていたら何かを焼きたくなったそうです。 実に彼女らしい大胆な発想だと感心し、 僕は力強く賛同した。 「あ、あたし、あんまりお肉はたくさん食べられなくってえ・・・」 「じゃあみくるちゃんはサンチュ担当ね」 「ふえええ!」 確かに朝比奈みくるが焼き肉を食べまくる、 という図は想像できません。 彼は涼宮ハルヒの暴挙をたしなめつつ、 財布の中身をちらりと確認している。 渋い顔をしながらも目が合うと苦笑して頷いて、 それは「金はないが付き合うよ」という意思表示だと受け取った。
「さあキョン、じゃんじゃん焼いちゃって!」 「へいへい・・・」 一つの七輪を5人で囲んで、 肉が載った皿はすべて彼の目の前に。 涼宮ハルヒと長門有希はすでに箸を構えて臨戦態勢を取っている。 僕も手伝おうかと思ったけど、 「一番遅く来たキョンの役目よ」 と彼女が望んだので手を引っ込めておいた。 隣に座る彼は手際よく肉を並べて、 彼女たちのペースも鑑みて最初からかなりの量を載せている。 当店自慢!と大きく書かれたたれを眺めてから彼の分も準備して渡すと、 小さくサンキュ、と言ってくれた。 みんなでいるときはあからさまな態度を見せたりしないように心がけている僕たちだけど、 こんなふうにさりげないときに聞ける彼の優しい声が僕はとても好きです。 あっという間に焼かれていく肉は、 あっという間に彼女たちの口の中に飛び込んでいく。 小さく息を何度も吹きかけながら朝比奈みくるも食べていて、 「おいしいですっ」 と喜んでいるので彼も嬉しそうに見える。 長門有希は焼かれるペースに満足出来なくなったのか追加注文をしては自分で焼き始めて、 僕はそんな様子を見るのが楽しくて自分が食べることを忘れそうになった。 「古泉、さっさと食えよ」 言われて自分の皿を見ると焼き肉がミルフィーユのように何層にも重ねられていて、 いつの間にこんなにあったんだろうと首を傾げる。 食べてから新しいものを置いた方がいいと思うんです。 こうなってしまうと自然と一番下が一番冷めるのが早くなってしまい、 たどり着く頃にはすっかりかちかちに・・・ 「おや」 と考えているうちにまた追加です。 涼宮ハルヒと長門有希には二枚ずつ、 朝比奈みくるには一枚、 僕には三枚。 これは明らかに配分が間違っているように思えるのですが・・・ じっと見てみても彼は気にせず次の肉を乗せて、 つまりこれは無意識のうちにそうしている、と。 「あの」 「んー?」 「あなたも食べた方がよろしいかと」 上に乗ったまだ暖かい分を彼の皿に移して、 その下にあったものから僕も食べてみる。 ほんとだ、おいしいです。 「俺はお前たちが満腹になってからでいいんだよ」 「ですが、一緒に食べるからこそ楽しいのでは?」 「代わる」 彼が持っていた肉を挟むもの(何というのでしょう?)を長門有希が奪い取り、 彼以上の素早さで焼き始めた。 「有希ってば焼き肉奉行ねえ」 涼宮ハルヒが感心したように呟く。 奉行ですか。 焼き肉にもそんな地位があったとは。 また一つ、涼宮さんに学ばせてもらいました。 「これお前の分じゃねえの」 「僕にはたくさんありますから」 「うわ、なんだその量。取り過ぎだろ」 呆れた目で見ていますが、 こちらはあなたが取ってくれたんですよ? 「まじか」 「えらく」 「すまん」 痩せすぎだといつも言われるのでそのせいでしょうか? 自分では食べているつもりなのですが、 まだまだ足りないそうです。 「食えよ、全部」 「ええ、善処します」 「俺がお前のために焼いたんだからな」 ぼそ、っと言われた言葉に、 七輪の熱とは違う熱さを頬のあたりに感じる。 長門有希に代わってからは分かってくれてるようで僕の皿には何も置かれない。 彼のところには置かれた焼き立ての肉が目の前にやってきて、 代わりに冷めたものを持っていった。 横を見るといいから黙って食ってろと言わんばかりの視線を向けていて、 自分は冷めた肉をまた焼き直してる。 「・・・ふふっ」 「なんだ、気色悪い」 彼が言う気色悪いは、そのままの意味じゃない。 そう言われると寂しいですと笑ってごまかしながら言ったとき、 「俺がそう言うときはお前をかわいいと思ってるときだから、気にしないでくれ」 とやや早口で言った後、 赤くなった僕を見て慌てて訂正してた。 彼の気持ちはたまに伝わりにくいけど、 聞けばちゃんと教えてくれるから今は安心してる。 涼宮ハルヒたちは回転寿司のように皿を積み上げるほど食べて満足したようで、 いつの間にかデザートタイムに入っている。 「焼き肉の後はアイスに限るわね」 「頭がきーんってしますうっ」 「杏仁豆腐を推奨」 僕も杏仁豆腐にしましょうか、とメニューを見ていると、 「うお」 「あ」 彼も横からメニューを見るのに集中していたようで、 焼き直していた肉が黒煙を上げていた。 焦げてる、 どころじゃない。 顔を見合わせて二人で苦笑して、 残りは焦げないように注意しながら焼き直した。 食べ終わる頃にはすっかり満腹でデザートは食べられないまま店を後にして、 「今度はカレーの食べ放題もいいわね!」 「あ、あたし、あんまり辛いのは食べれなくってえ・・・」 「じゃあみくるちゃんはナン担当ね!」 「ふえええっ!」 聞いたことのある会話を繰り返して、解散となった。 少ししてから僕たちはいつもの公園で待ち合わせて、 誰もいないことを確認してから軽く口付ける。 「少し遠いけど、満腹だし歩いて帰るか」 「そうしましょう」 「帰りにコンビニで買っていこうぜ、杏仁豆腐」 「・・・はいっ!」 僕が見つめてたの、 気付いてたんですね。 誰もいない帰り道を手を繋いで歩く。 彼はよく家族で焼き肉に行くから手際がよかったようです。 「今度は二人で行きましょう」 「よし。お前も上手に焼けるように俺が教えてやるよ」 「長門さん以上の奉行になれるように特訓しますっ!」 「ははは」 あなたのためなら何にでもなります。 あなたが喜んでくれるなら何でも、 僕、頑張ります!
キョン古仲間と焼肉に行った際のコネタ。
ササさんが谷口+キョン古で絵にしてたのでつい触発されたんだ!
二人はえらくラブラブです。