「ふう・・・」



閉鎖空間での神人退治を終え、
帰ってきた古泉は俺の横で小さく溜息をついた。
聞き逃してもおかしくないくらい小さなもので、
古泉に関してのみ敏感な俺だからこそ気付けたのだと自負している。



「どうした、疲れたか」
「え、ああ、聞こえてました?」
「聞こえてた。ご苦労さん」
「ありがとうございます」



見せてくる笑顔もどこか疲れ気味だ。
他の奴から見れば同じに見えるだろう、
本人も同じ笑顔を見せていると思っているかもしれない。
だが俺には分かる。





「今日の飯は簡単でいいから」
「大丈夫ですよ。そんな、難しいものも作れませんから」





キッチンへ向かう途中に声をかけたが、
古泉は首を振って冷蔵庫の中から色々と野菜を取り出した。
中途半端なことが苦手な古泉らしい。
別に今日くらい、コンビニでもいいのにな。
そりゃ、お前の手作り料理が一番だけど、
手抜いたっていいんだぞ、たまには。








週の真ん中の夜。
明日は学校がある。
古泉は日直だから少し早く家を出るはずだ。
じゃあ今夜は我慢しよう。
疲れている古泉を、これ以上疲れさせるわけにはいかない。
飯を食べて、風呂に入って、並んで歯を磨いたら、
眠りにつくまで頭でも撫でてやろう。






おねだり






「今日もうまかった、ごちそうさん」
「はい、よかったです。先にお風呂入ります?」
「後片付けやるから、お前が先に入れ」
「分かりました。では、お願いします」




気を遣うのに慣れている古泉だから、
付き合って最初のうちは何もさせてくれなかった。
食器の片づけすら。
あなたはお客さまなんだから何もしないでください、
包丁を洗っている間に怪我でもしたら大変です、なんて。


頭を小突いて、余計な気を遣うんじゃないと言ってやり、
強引に手伝うようになってからは少しは甘えてくるようになったと思う。
それでもまだ、100%気を許してるわけじゃないけどな。
疲れたならもっと疲れた顔を見せてくれたっていい、
古泉が他では見せない表情を見れるならなんだって嬉しい。
愚痴も言わないし、泣き言も言わない、
聞きたいわけじゃないが、
もっと俺に甘えればいいのに。








食器を水洗いし終えて、
布巾で拭いているとシャワーの音だけが聞こえてくる。
古泉が使っているシャンプーもボディソープも、
いい匂いがするんだ。
うちで使ってるのとは違う。
薬局で見たことのないものだ。
匂いもハルヒが望むものにしてるんだろうか?
優等生、古泉一樹のイメージに合う匂いに。




食器を片付けた頃に、
シャワーの音も止まる。
扉の開く音。古泉が出てくる音。
浴室へ繋がるこのドアを開ければ、
一糸纏わぬ古泉がそこにいるわけか。







心臓が、高鳴ってきた。




俺は古泉が好きなんだ。
古泉だから、どきどきするだけだ。
他の男の体には興味がない。
ここは自分のために強く主張しておきたい。



しかし今日はやらないぞ、
古泉のために我慢すると決めたんだから。






「片付け、ありがとうございます」
「おう」
「お次どうぞ。バスタオルはこちらに」
「サンキュ」




古泉が近くに来ると、
そのいい匂いも漂ってきて、
これから俺も同じ匂いになるわけだが、
どうして古泉から発せられるとこんなにどきどきするんだろう。
好きだから、ただ単純にそうなのか。
それとも、期待してしまうからなのか。





駄目だ駄目だ、
今日は期待しない。しない。
また次の機会だ。
古泉が元気な日に。
そうじゃないとあいつも楽しくないだろ。
じゃなくたって、
あれの最中ですら気を遣う奴だぞ。






「あの、動いたほうが、いいですか?」
「声って、抑えたほうがいいのでしょうか・・・
 男の声を聞いても楽しくないですよね」
「どこを舐められると気持ちがいいか、教えてください」





二人で気持ちよくなるのはいいことだ。
そのためにお互いを理解しあうのは有意義だ。
だがしかし。
こっちが、どこがいいのか聞いても答えないくせに、
俺にばっかり聞いてくる。






これも最初の頃の話だが、
腰を振ってくれたほうが気持ちいいと俺が言ってから、
おずおずと腰を振り始めた。
言うことを聞いてくれる古泉が可愛くて、
もう少し早くとか、頼んでしまった自分が悪いのもある。
後ろ向きのまま達したあとに、
古泉、ああ大好きだ大好きだ、と思いながらキスをせまると、
ぼろぼろに泣いていてたいそう驚いた。




しつこく理由を問いただしたところ、痛かった、と正直に吐いた。
それならやらなきゃいいのに、
あなたが喜ぶことをしたいんですと言いやがる。
俺も同じなんだ。
お前が喜ぶことをしたい。
お前も気持ちよくなきゃ、意味がない。







だから今日はしない。
風呂に入っている現在、
その行為を思い浮かべたために最中の古泉の顔が脳裏に浮かび、
離れてくれなくて困っているが大丈夫だ。
俺は我慢できる。








「ふー、すっきりした」
「おかえりなさい」
「それ、仕事か?」
「ええ。機関への報告資料です。つい先ほど終わりました」



帰ってきてまでご苦労なことだ。
ちゃんと給料払ってるんだろうな、機関の皆さんよ。
前途有望な若者をこき使うのはどうかと思うぜ。






しかし、こりゃますます疲れていることだろう。
子守唄でも歌ってやるかな。
寝つきはいいからすぐに眠りに落ちそうだ。
まあいいか、
古泉が隣で眠っているという事実だけでも嬉しいからな。






いつもの通り洗面所で一緒に歯を磨き、
二人で寝るには少し狭いベッドに横になる。
たとえどんなに窮屈でも、
別々に眠るなんて選択肢はない。





「おやすみ」
「おやすみなさい」








眠る前に軽いキスをして、電気を消す。
子守唄は照れくさいのでやめにするとして、




「今日は、お疲れ」



とだけ言って、頭を撫でてやる。
古泉はくすぐったそうに笑って、
俺に抱きつきながら目を閉じた。
くそ、かわいい。
目を開けている古泉はもちろんのこと、
目を閉じていてもかわいい。
どきどきする。えらく。







心臓の速度の関係もあって眠れずに、
頭を撫で続けて40分は経っただろうか。
古泉がもぞもぞと動き出した。






「手、邪魔だったか?」




ずっと撫でていたせいで、起こしたのかもしれない。






「いえ・・・あの、今日は、」
「ん、どうした?」
「・・・・・・しないんでしょうか?」





真っ暗で顔は見えない。
どんな表情で、こんなことを聞いてきてるんだろう。
真っ赤になって照れているのか、
それとも心配そうに目を伏せているのか。





古泉と体の関係を持つようになったからといって、
泊まりに来れば毎回やっているわけではない。
まあ、・・・9割9分くらいは、してる、けど。
また気を遣わせてしまった。







「今日はゆっくり休め」
「・・・はい。おやすみなさい」
「ん」





俺は出来るだけ優しい声で言ってやる。
古泉も安心したように、眠りについた。














はずが。





「あの」





また40分ほど後に、
俺も徐々に睡魔と仲良くなりかけていた頃に、
古泉が声を出した。
起き抜けの声じゃない。
もしかして、寝てなかったのか?





「どうした?」
「・・・眠れないんですか?」
「いや、そんなことはないぞ、大丈夫だ」
「そうですか、よかった」





俺が起きてるの、分かってたのか。
そりゃ頭を撫でていれば分かる、な。
しまった。
結局また気を遣わせている。




撫でている手を背中に回して抱き締める。
俺ももうすぐ眠れる気がするし、
脳裏に浮かんで中々消えなかった古泉の姿も、
うっすらともやがかかったようになってきた。









「・・・古泉?」




抱き締めて、気がついた。
古泉の体が少しだけ震えている。






ど、どうした。寒いのか?布団かぶってるよな?風邪か!?






「ち、違うんです」
「じゃあどうしたんだ」
「・・・・・・くて、」
「え?」



声が小さくて、よく聞こえない。







「・・・したい、です」







情熱、カムバック。
























「あ、あっ、あうう・・・!」
「素直に最初から言えばよかっただろ」
「だ、って、あなたは、したく、ないのかと、」
「んなわけあるか。お前が疲れてるから、我慢したんだ」





抱き締めていても気付かなかったが、
古泉の体はもうかなり、あれなことになっていた。
こいつも相当我慢してたようだ。
むしろ俺以上に。




「平気なのか?疲れてるんだろ?」
「疲れて、ると、したくなるみたい、です、んうっ」
「へえ・・・そういうもんなのか、お前の体は」




俺はハルヒに振り回されてぐったり疲れているときは、
すぐにでも家に帰って眠りたい派だけど、
お前みたいなのもいるんだな。
よかった、
お前について一つ知識が増えた。
大いに、これからの参考にさせてもらう。








「はあっ、も、もう、入れて、平気です」
「そっか。・・・あれどこに置いたっけ?」




いい具合に慣れてきて、古泉のOKサインが出る。
いつもベッドの下に置いていた箱を取ろうとしたものの、
手探りしても見つからない。
古泉の体を傷つけてしまわないように、
後で嫌な思いをしないように、
必ず装着している薄い物体のことである。





「・・・他の、ところにしまって・・・」
「どこにある?」
「・・・今は、いいので、入れてください」





だんだんと暗闇に慣れてきた目で、
今なら見える。
耳まで赤くなって、
目を潤ませながら言ってくる古泉の顔が。





俺の理性が爆発して散っていくのが分かり、
しょうがない。
出すときに抜けばまだいいだろうと、
古泉が望むとおりそのまま中に入っていく。






「あ、あーっ・・・!!」
「うわ・・・」





これが、
古泉の、体。





一枚隔てただけで、ここまで変わるものか。




体感温度が2度は違う。
それだけで、やたら熱く感じる。
これは今日が熱いのか、それとも直接だからか、
よく分からないが気持ちがいいのは分かる。






「は、入って、ますっ」
「古泉・・・、お前の中、すごい、んだな」
「や・・・そんなこと、言わないで、くださ・・・」





何か囁くたびにきゅうきゅう締め付けられて、
なのにローションや古泉の体液のせいでぐちゃぐちゃになってるから
入れやすいし出しやすいし、
古泉の体の中を直接感じるから気持ちよさがハンパない。





早めに抜かないとまずいな。
ひとまず先に、いかせてやろう。
我慢して、
古泉が感じる場所に当たるように突いて、






「んうっ!ふ、あ!き、もちいです、きもちいいっ・・・!」
「古泉っ、先、いっていいから」



言ってやってるのに、





「い、一緒、が、いいです、あっ・・・!我慢、しますっ」






かわいいことを言ってくるじゃないか。
泣けてくる。








俺はとうに限界間近だぞ、
そう思いながら古泉も限界間近まで追い詰めて、
そろそろ危ない、と抜こうとしたそのとき。








「あ!! だめ、です、抜いちゃっ」
「いや、もう、俺もイく」
「抜かないで、ください」
「それはまずい」





今日、つけてないって忘れてるだろ?
どこにあるのか教えてくれれば、
即座に装着して抜かずに中で、
が出来ないこともないが、







「・・・・・・中に・・・」
「ん?」



また、声が小さい。
なんだって?










「中に、出して欲しいんです、お願い、します」









今のは、



俺の夢か?










「だめ、ですか・・・・・・」







古泉が、
泣きながら訴えてくる。








「中に、出して、くださいっ」








もう一度。










頬を叩くまでもない。





こんな気持ちのいい夢があってたまるか。
毎日夢精するはめになるじゃないか。









「古泉っ!!」
「ふ・・・あ!!あ、あ、そんな、激しくしちゃ・・・!」
「好きだ、古泉、大好きだ、大好きだ」
「!! ・・・ぼ、くも・・・大好き・・・!」
「出すぞ、ほんとに、中で」
「はい、はい、お願い、しますっ」







お願いされるもの、だったんだな、
知らなかった。
俺が土下座を1時間ほどしてやっと、
検討してもらえるレベルだと思っていた。
古泉の、
中に、
出すなんて。










「こい、ずみっ・・・!!!!」
「っ!! な、中、きもち、いっ・・・!!」












俺が出してすぐ、
古泉もいつもよりやたら多めに、
精液を零した。



そのタイミングは、
俺に出された感覚で、
イっちまったようで。













感動に打ち震える胸を押さえるので必死だ。




古泉に声をかけられやっと引き抜いたところ、
体の中から白いものがとろり、と出てきて、
非常に心臓に悪い思いをした。
いや、いい思いなんだが。
これがまた脳裏を離れなくなるんだろう。
参った。
嬉しいけど、参った。
刺激が強すぎる。















「ありがとう、ございました」



礼を言うべきは俺なのに、
古泉は深々と頭を下げてきた。




「嬉しかった、です。心配してくれていたのも、
 ・・・お願いを聞いてくれたのも」





いや、こっちこそ。







あとな、
たぶんあれはお願いじゃなくて、おねだりというのであって、



というのはどうでもいいか。







「遅くなってしまってすみません。
 僕は、その・・・お風呂に行ってくるので、
 先にお休みになっていてください」
「バカかお前は」
「え?」
「俺がやる。変な気遣うなよ」
「え!いえ、その、気を遣っているわけでは・・・!」





中に出したのは俺。
で、
お前の体の中を一番知ってるのも俺。
その処理は俺が適任だ。





「恥ずかしいです・・・」
「今更だろ。さっきはあんなに、」
「い、言っちゃだめです!」





慌てて口を塞いでくる。
はは、
お前はほんと、かわいいな。

















後処理をしていて俺は思う。






またお前が疲れていて、
どうしようもなくやりたくなったら、
言ってくれ。




これが毎回だと俺の理性は復活を遂げられる自信がない。









今夜は、眠れない夜になりそうだ。







thank you !

中DASIをおねだりするいっちゃんリクをいただきました!
キョンは大好きだと思うんだけどあえてのチキンハートで。。。

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