HB









「今度こそ、いい報告ができるかもしれないぞ」









嬉しそうに兄さんが笑って言ってきたから、僕も笑っておいた。













「へえ。相手はどんな人なの?」
「駅前の花屋でアルバイトをしている子なんだ。
 前に森さんの遣いで行ったときに仲良くなってな・・・」









いい年なのに森さんにいいように使われてる、ってコトをまず認識して、
反省してほしいところだけど。






駅前の花屋だね。
分かるよ、兄さんの好きなタイプの女性なら、見るだけで分かる。










「頑張って。僕も応援する」
「ありがとう。またいろいろ相談に乗ってくれ」
「うん。もちろんだよ」




















夜勤明けの兄さんが寝室へ向かうのを見送って、
僕は出かける準備を完了させる。
今日は午後からの仕事だから出るには少し早いけど、
しなきゃいけないことができた。













それじゃ、行ってきます。















Only One











「こんにちは、裕さん」
「やあ、一樹くん」
「お休みの日もお仕事ですか? 大変ですね」
「こんな仕事だから。でもこうやってパトロール中に君に会えて嬉しいよ」
「またそんなこと・・・」
「本当だよ。はい、これ」









小さな花束を渡すと、
一樹くんは驚いた後に照れ笑いを見せてくれた。
今日もかわいいね、君は。











「これから彼に会うんです、だから・・・」
「それ、あげてもいいよ」
「笑われませんか? お花をプレゼントしたりしたら」
「一樹くんは僕からもらってどう思ったの?」
「嬉しいです」
「じゃあ、大丈夫だね」
「・・・はいっ」





軽い足取りで、手を振りながら去っていく。
実際は笑われると思うよ。
一樹くんに花をあげるのは似合うからいいけど、
君の彼には似合わない。
けどその行為すらも彼はかわいいと喜んでくれるはずさ。


















さてと、そろそろ真面目に仕事しようかな。



























「裕・・・聞いてくれ」
「どうしたの? そんな、暗い顔をして」
「彼女が最近上の空なんだ。話しかけても空返事だったり、メールの返事も遅くてな」
「それは・・・。彼女、飽きてきちゃったんじゃないかな」
「はっきり言わんでくれ・・・」
「まあまあ。その程度の人だったってことだよ」
「今度こそと思ったのに・・・・・・」








滅多に家じゃお酒を飲まない兄さんが、今日はワイン一本開けている。
今度彼女を連れてきたら飲もうか、と冗談めかして言っていたものだ。
つまり、もうここに彼女を連れてくる気はない、と。
もう諦めていたんだろう。
話してくれているよりも事態は深刻で、
僕に最後のひと押しを言って欲しかったんだね。














「兄さんも独身貴族の道まっしぐらかあ」
「すまないな、お前にまで心配をかけて」
「心配してないよ。兄さんは大丈夫だって。次があるよ」
「裕・・・。お前だけだよ、私の味方は」
「はは」



















そうだよ。
僕はずっと兄さんの味方。
小さい頃からそうだったからね。
優しすぎる兄さんは騙されてばかりで、僕が助けてあげた。
それがまたからかわれる原因にもなったけど、
兄さんはいつも笑って、怒る僕をなだめてた。
優しいだけじゃだめなんだ。
僕がちゃんと見ていてあげないと、痛い目に遭う。
今回の花屋の彼女だってそうだよ。
まるで誠実そうに見えて、簡単に浮気するような子だった。
兄さんにはふさわしくない。
僕が守ってあげる。




























「縁談?」
「ああ。ありがたいことに、会社の上司がもちかけてくれて」
「ふうん・・・。写真とか、ないの」
「もちろんあるぞ。見てくれ」







兄さんはこんなだから、人望もそれなりに厚い。
何度もこんな話が出ているけど断ってきた。
今回、僕にわざわざ言ってきて、
この嬉しそうな顔を見ると、もしかすると・・・




ほら、やっぱり。
兄さんの好きなタイプじゃないか。








・・・どこか、あの子に似てる。












「どうだ、素敵な女性だろう」
「うん。いいんじゃない」
「スーツを新調したほうがいいかな!」
「いいんじゃない」
















兄さんの会社の上司からの話。
あの顔。
名前も書いてあった。






この情報があれば住所や家族構成や社内での立場からよく行く気に入っている店まで、
全部調べられる。





僕が守らないと。












































「一樹、くん」
「は・・・いっ、何、でしょう・・・?」
「君は、嫉妬とか、する? 彼が他の子と、仲良くしてると」
「い、いえ・・・あ、あっ・・・。僕は、平気、です」
「ふうん・・・そうなんだ」
「彼の方が、たまに・・・あ、きもち、いっ・・・」





そっか。
そうかもしれない。
彼と、君なら、
彼の方が気持ちが強そうだ。
どんなに想い合っていたってそこには多少の差が出来る。
一樹くんも彼を大好きだろうけど、
・・・僕と、こんな関係を続けられるくらいだから。
彼に気付かれたら大変なことになるよね、僕たち。

もちろんそこは心配しなくていいよ。
事件を消すのには慣れているから。
君は心配しないで、どんどん気持ちのいい体になればいい。




















きっと兄さんと僕じゃ、僕の方が圧倒的に意識してる。
嫉妬どころじゃないよ。




今でもさ、
君を、
兄さんが心底惚れてる君を抱いているこの瞬間が、
最高にいい気分になるんだ。




それと同時に今度の縁談をどう壊してやろうか考えてる。
ごめんね、一樹くん。
僕も君が好きだよ。
かわいいと思うし、こんなに感じる体も珍しいから、手放す気もない。
けど、本当の目的は君とセックスすることだけじゃない。
ごめんね。































「裕、私はつくづく縁がないんだな・・・」
「元気出してよ。今回の件は、兄さんのせいじゃない」
「しかし・・・まさかこんなことに・・・」
「タレコミがあったみたいだね。おそらく内部告発じゃないかな、僕は専門外だから分からないけど」
「このタイミングでなあ・・・」



相手の会社の粉飾が発覚。
テレビで見た記者会見では会長以下役員が頭を下げて、謝っていた。
取引先からの信用もがた落ち。
当然、縁談もなくなる。
つい2日前のこと。
















調べるのは簡単だよ。
どんな会社だって弱みは必ずある。
大きな会社になればなるほど、ね。


















「今日は飲むぞ。とことん飲むぞ」
「仕方ないなあ・・・付き合うよ」
「いいのか。明日の仕事は」
「それは兄さんも一緒でしょ。いいよ」
「裕ーっ!」











慰めてあげる。
僕がずっと、味方でいるよ。
兄さんに必要なのは僕一人だけ。
悪い虫は全部退治するから。
















何も心配しないで。
ずっと僕だけの兄さんでいてよ。








thank you !

ビバ多丸兄弟!




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