火傷−1





俺のことが好きなくせに。
古泉は絶対に、それを認めようとしなかった。

「何を仰っているのか、わかりません」

真っ赤な顔で、何を言ってるんだ。
こっちのほうが、分からないぜ。
お前がなんで素直に認めないのか、な。


「手、離してください」


壁に押し付けて、古泉の動きを封じるための腕に目をやって、
古泉は余裕のない声で言う。離したら、どこかへ逃げるだろ。

「もう帰ります、帰らないと」
「どうせ一人暮らしだろ、お前は」
「そうですけど、僕にも色々と用事があるんですよ」
「じゃあ言ってから行けばいいだろ」

非難めいた目で見る古泉も、やっぱり、かわいい。

機関とやらに所属していて、
小さい頃の趣味が天体観測だとかいうこいつは、
きっと今まで俺みたいな友人もいなかったんだろう。
安物スマイルでいつも俺の傍に寄ってきて、懐いていた。


俺が一緒にゲームをしてやると喜んで、
副団長としての仕事っぷりをたまに褒めてやると一瞬驚いて、
すぐに頬を染めて照れ笑いをする。
ハルヒとの信頼関係がうらやましいとのたまったり、
どうやら既に魔の空間へと化しているらしい部室で俺の身に
危険が起きないよう、がんばっていると笑顔で言ってきたこともあった。


分かりやすすぎるんだよ。
なのになんで、素直に言えないんだ。こんなときだけ。


「意味が分かりません。僕も忘れますから、もうやめましょう」
「ふざけるな」
「ふざけてるのは、どっちですか」


苛々としてきているのは俺も古泉も一緒だ。
なんでお前が苛々するんだ。
俺がきっかけを与えてやってるのに、その態度はなんだ。
考えるほど頭に血が上ってきて、古泉の前髪を掴んで壁にぶつけた。


「痛っ・・・!」
「お前、むかつく」


なめらかな白い額が露わになると、苛々よりも、別の感情が勝る。
頭を押し付けたまま、無理やり、口付けた。








「マジで・・むかつく」


一人部室に取り残され、嘆く。
喜ぶと思ってたんだ。
好きだろ、と聞いたら、
「・・・好きです」
と瞼を伏せながらかわいい顔して言うと思ったんだ。
なのにまさか、あんな顔して、俺を突き飛ばすとはね。



やれやれと、倒れたときにまみれた埃を払い、部室に鍵をかける。
古泉が俺を好きなのは間違いない。
そこは疑いようがないんだ。
おそらくあいつが恐れているのは、あの女子高生、ただ一人だ。
神だとか大それた称号を与えている、涼宮ハルヒ。


あいつにバレたら困るから、わざと俺を突き飛ばしたんだろ。
それ以外にない。
バレなきゃいいのに、ってお前にとってはそんなもんじゃないのかな、たぶん。


これから家に行ったりしたら困るだろうか?
しかしこのまま明日になって、まるで何事もなかったかのように笑顔を
振りまかれるのもいけ好かない。


鉄は熱いうちに打て、だ。




thank you !

長いの書きたくて続き物です。私はどうも初めて物語が好きでしょうがないらしいです。
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