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ありえないことだ。 あってはいけないことだ。 冷静に考えなくては。 どうする?どうすればいい? 明日会ったら何事もなかったようにやり過ごそう。 できれば一番遅くに部室に行って、 涼宮ハルヒが食い付きそうな話をして、 できれば彼と二人で姿を消してもらうのが一番いい。 ・・・・。 ああ、何も思いつかない。 頭が回らない。 最初から無理矢理にでも逃げていればよかった、 どうしてあんなことになるまでそうしなかったんだろう! あってはいけないことだった。 僕の気持ちが彼に伝わるなんてことは。
静まり返った室内に突然高い呼び出し音が響いて、跳ね上がる。 新聞勧誘か何かでしょうか? 悪いですが、今は相手をしている暇はないんです。 唇をなぞると思い出す、強引に押しつけられた彼の感触を。 たまらなかった。 いつもいつもそうしたいと思ってた。 彼とキスをしたらどんなに気持ちがいいんだろう、 彼の舌はどのくらいの温度で、 どんなふうに動くんだろう。 考えるだけでよかったのに。 邪念を振り払おうと頭を振る。また、呼び出し音が鳴る。 今度は三回続けて。 しつこい、ですね。 文句の一つでも突きつけようと鍵を開けて、 ノブに手をかけた瞬間、 僕は一つの可能性を完全に無視していたことに気付いて愕然とした。 ノブが、自分の意志に反して勢いよく回されている。 そう、 「来てやったぞ」 彼がここに来るという可能性を。 冷静に考えたら予想のできたことなのに。 すぐにドアを閉めようとしたけれど、 やっぱり無駄だった。 「ここまで来たんだから茶の一つでも出せないものかな、古泉君」 睨みつけても、何も効果はなかった。 追い返さないと。 帰って、もらわないと。 でも、わざわざ来てくれたのに? 逡巡してるうちにいつの間にか彼は靴を脱いでずかずかと室内に入り込んでしまう。 ああ、やっぱり、ダメです。 嫌な、予感がします。 差し出した紅茶には手をつけずにじっとこちらを見てくる目に耐えられず、 切り出したのは僕だった。 「すみませんでした」 「何が?」 「その…突き飛ばしたりしてしまって。お怪我はありませんでしたか?」 「あのくらいで怪我なんかするかよ」 「そうですか」 汗が首筋を伝わる。 暑くなんかないのに。 彼の視線に、もう本当に耐えられない。逃げ出したい。 僕は絶対に言えないんです。 あなたへの気持ちだけは。 顔を上げられずにいると、不意に影ができた。 彼が立ち上がって、ああ、帰ってくれるのだなと安心したのも束の間、 なぜかベッドの上に移動して、ぽんと掛け布団を叩いた。 「何でもいいから、とりあえずこっちに来い」 あ・・・ あなたって人は・・・ 突拍子がなさすぎます! 「ありえません」 「あのなあ、」 「帰ってください、タクシーをお呼びしますから。ご存知の通り代金は必要ありません」 「そうじゃないだろ」 「帰ってください」 かなり苛立っている。 彼も、僕も。 彼の怒りはもっともだ。 僕の気持ちはすっかり知られていて、 それでいて、 彼は僕を拒絶せずむしろ受け入れようとしてくれてる、んだと思う。 なのにそれに応えられない。 彼にここまでさせているのに。 だけど。 僕だって、 こんなにあっさりと禁忌を犯そうとしているあなたに心底呆れているんです。 「別に無理矢理やろうってわけじゃねえよ」 「っ・・・!」 「そんなに警戒するな」 さっき無理矢理やっといてあれだけど、と小さく付け足す。 何も、分かっていない。彼は、何も。 話せば、分かってもらえるんでしょうか? あなたの一挙一動が、 世界にどれだけの影響を与えるかということを。 神にこのことを知られたら、あなたの存在すら危うくなることを。 僕は消えたっていい。 それで解決するなら構わない。 だけどあなたは。 それじゃだめなんです。 震える足に力を入れて、ゆっくりと、彼の元へ行く。 分かってください。 僕はあなたが、大切なんです。
しつこく続きます。この後はキョンor古泉ルート分裂しとります。
キョンルートはこちらから。
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古泉ルートは18禁なのでオトナの方のみどうぞ。
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