※キョンがバカです








それはいつもと変わらない日のことだった。
変わらない、と言っても毎日が約1名の女子のおかげで刺激的で流動的だけどな、
それも、もういつものことと言ってしまっていいだろう。


部室でハルヒが朝比奈さんの新しいコスチュームをネットで探し、
歓声を上げては朝比奈さんをビビらせている。


長門は窓辺で本を読み、
俺と古泉はオセロに励む。



扉一枚






半分ほどゲームを進めたところで、
何の拍子なのか、
古泉が派手に手持ちの駒を床にぶちまけた。


「おい、なーにやってんだ」
「すみません、手が滑りました」


机の下に潜って散らばった白や黒の丸い駒を集める。
俺が取ろうとした駒に指を伸ばすと古泉も同じようにしていて、
指先がちらと触れた瞬間に古泉がすごい勢いで手を引っ込め、
なぜかすぐ立ち上がるから、


「いたっ!!」


予想通り頭を強く打ち付けてやがる。
何やってんだ、まったく。



「大丈夫ですかぁ?す、すごい音がしましたけど…」
「すみません…」
「怪我はない?古泉君!」
「はい、特に問題ないかと」



とか言いながら涙目じゃねーか。
って、
こら、涙を溜めた目でこっちを見るんじゃない!



「っ・・・!」


反則的だ。
反則的にかわいい。
常に思っていたことだが(こんなことを常に思っているのもどうか)
古泉は、かわいい。
毎日見てれば美人は飽きるはずなのに、
しかもこいつは毎日変わらない出来過ぎな笑顔しか見せないのに、
なぜこうも毎日かわいいと認識しなければならんのだ!


ああ、かわいい。
今日はまたいつもよりかわいく見える。
涙目のせいか、そうなのか。
なんなんだ、一体。



って・・・




おい!



「ちょっ、と…便所行ってくる」
「あ、はい」



気付かれないよう制服のシャツを伸ばして前を隠し、前かがみで慌てて部室を飛び出した。
どーしたの、キョン!という団長様の叫び声が聞こえたが、答えてやる余裕もない。


突き当たりにあるトイレの、個室に駆け込んでベルトをはずすと、
おいおいおい、なんてこった。
古泉が目を潤ませているところを見るだけで勃つとはどういうことだ。
さすがにこれはない。
ないぞ。落ち着け。



・・・。



落ち着くそぶりもない、か。
始末するしかないよな、こりゃ。


「はぁっ…」





気の迷いで一度古泉で、やっただけだった。

あの夏の合宿で見せた浜辺での笑顔が脳裏から離れなくて、
まあ、いわゆる好奇心ってやつだ。
古泉でイけるなんて思わなかったのさ。



それがいつもより早めにイってしまったことに激しく狼狽しながらも、
それが癖になった。
もちろんあいつにそんな素振りなんて見せたことはない。
実物でまで興奮することのないよう、
なんでもない日常を送ってきたんだ。


なのに、
あんなのを見ただけでダメなのかよ。
どんだけ若いんだ、俺は。


先端がにじむ。
学校でやってるという罪悪感がちらちらとよぎって、
早く出してしまいたいのに集中できない。


「こ、いず」


バタン。


扉が開閉する音に、心臓が一瞬止まった。



誰だよ、こんなところに来る奴は!
今日はコンピ研の奴らはいなかったはずだぞ?
誰でもいいからさっさと用を足して、出ていってくれ!



なんだ。
足音が、近づいてくる。
まさか。

ドアの横でぴたりと止まった足音。
遠慮がちに、ノックされた。


「あ、の…古泉です。具合が悪いんですか?大丈夫ですか?」


冷や汗が伝った。
どうする?いないふりをするか?
でも古泉は、俺がここにいることを知ってる。
そんなふりには意味がない。



「いや…大丈夫、なんでもない」
「涼宮さんが心配してます」


なんでハルヒだよ。
お前が心配して来たわけじゃないのかよ。


古泉。


こんなに近くにいるのに、
俺はこんなことをしている。
いや、これは、まずいだろ。
思いながらも手が動く。まずい、よな、たぶん。


「こい、ずみ」
「はい」
「お前はハル、ヒの、言いなり、だな」
「それは…仕方ないことです」
「言われ、なきゃ、様子も、見に来なかっただろ…」
「そんなことはありません、僕だってわりとあなたを気にかけているんですよ」


なんだ、そうなのか。
じゃあハルヒがどうとか、言うなよ。



「ふっ…」


やばい、やばい、
止まらない。
右手を動かしたまま、左手で口をふさぐ。


「あ、の…本当に大丈夫ですか?苦しそうなんですが」
「しんぱ、い、すんなって…」
「でも、心配です」

そっか、心配か。
だけどな、俺はお前と数センチの距離で、
とんでもないことをしてんだよ。



部室で二人きりの場面がうかぶ。
床に押し倒したら、目に涙を浮かべたあの顔で戸惑うだろうか。
唇はどのくらい柔らかいんだろう。
どんな声をあげるんだろう。
どんな味がして、どんな顔で喘ぐんだ。


「こ、古泉」
「あの、具合が悪いようでしたら薬、お持ちしますよ」
「いら、ない」
「横になったほうが楽じゃないですか?保健室、まだ開いてるかも」
「いいから…」



そうじゃないんだよ。
そうじゃない。
俺が欲しいのは薬でもベッドでもなくて、
(ベッドはあってもいいか、とか、そうじゃなくて)



「お前が、」
「え?」


お前なんだよ。
くちゃり、と水音がする。やべ、この音は・・・
いや、でも、もう…



「あ、う…」

くちゅ、くちゅ、
強く擦るとまた音が聞こえる。
古泉にも、聞こえてるだろ、
同じ男なんだから、わかるだろ。



「は、あっ…こいず、みっ…」
「あの、ええと、僕…ここにいないほうが、いいですか?」
「いや、」


いたら、まずいだろうよ。 


「そこにいてくれ」



ああ。
ダメだ。
イっちまう…!


レバーに手をかけ、その瞬間に前に引く。


「古泉、古泉、こいずみっ…!!」








あー、

いつもの癖で、
思い切り名前を叫んでしまった。
人間の癖というのは恐るべきものだね、
無意識に出てしまわないような研究は、誰か、してないのか?
なんとかしてくれれば、俺がこれ以上はないってくらい誉め称えるぞ。


なんて考えてる場合でもないよな。


すぐに水と一緒に流れていったはずなのに、
それ特有の匂いが届く。どわー!



まだ、いるのか、古泉。
空気を読んで、出ていってくれたのか?




「・・・」


いるよな。
呼吸、聞こえるもんな。
あー、あー、あー。


いつもどおりの日常のはずだったのに。
壊したのは、俺だ。
さすがにこんなのをハルヒのせいには、しないさ。



トイレットペーパーで拭き取り、再度水を流す。
ベタだが、今の一件も水に流していただきたいものだ。



扉一枚。
俺たちの間にあるもの。
しかしこの先にいる古泉と俺の状況は、恐ろしいほど、異なる。
さて、どんな顔で出て行って、何を最初に言うべきか?




古泉、
お前のフォロー力に、期待してるぞ。



thank you !

こっちのほうが自慰ネタくさくなりました!
そして前にもやったドア1枚隔ててバレちゃってるネタです。ベタネタです。
そろそろキョンファンに刺されそう!(私はキョンも大好きです)
しょうもないですがその後もあります

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